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2007年5月17日の記事。

人生の祭典

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070517人生の祭典

 『ロストロポーヴィチ 人生の祭典』、アレクサンドル・ソクーロフ監督。渋谷のイメージフォーラムにて上映のこの映画、友人が字幕翻訳にたずさわったというのを聞いて、観に行った。ソクーロフ監督の映画は、劇的な展開を排し、一見淡々と繰り出される詩情ある映像のなかから、ある人生の軌跡をそこはかとなく浮かび上がらせる作風。近年何作か見逃していたが、友人からの知らせを契機に久しぶりに観た。
 先日亡くなったチェリスト、ロストロポーヴィチと、妻である元ソプラノ歌手、ヴィシネフスカヤを撮ったドキュメンタリー映画。夫妻の盛大な金婚式の祝宴の様子を土台に、本人と妻それぞれへのインタビューや、過去の演奏および出演作品、近年の活動の模様などを挿入しながら映画は進行していく。映像に見るロストロポーヴィチは天真爛漫、芸術の光に包まれた者の明るさがあるのに対し、一方のヴィシネフスカヤは重い情念の混沌を内に秘めているようで、対照をなしている。
 映画の最初、深いしわの刻まれた気難しげなヴィシネフスカヤの顔が注意を惹く。ソクーロフ自身がインタビュアーとなって切り込んでいき、また、過去や近年の映像が積み重ねられていくことで、彼女のしわに折りたたまれた屈託が次第に見えるようになってくる。金婚式の席上、彼女が見せた満面の笑みで映画は締めくくられる。ロストロポーヴィチの魅力もさることながら、ヴィシネフスカヤのしわが開かれていく過程、彼女の人間性が開示されていく過程をとらえた映画として、静かに迫ってくるもののある作品だった。




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