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2007年7月14日の記事

人形になる

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070714監督ばんざい

 北野武監督の『監督・ばんざい!』を観た。次の映画を撮ろうと悩む監督の試行錯誤の過程を、撮りかけて失敗に終わった作品の連鎖によって描き出した作品。撮れないのではなく、撮れば撮れるしそこそこ成功するだろうという結果が見えているものをわざわざ撮ってもしょうがない、という倦怠と風刺、型を壊して何が産まれるかという野心と探求心をギャグでくるんで提示している。
 一つ一つの作中作が失敗に終わるたびに挿入される、北野武に似せたハリボテ人形の自殺のイメージ。ギャグに見せているが背後には創り手の絶望が隠れている。しかし、ぬけぬけと縄を抜けて性懲りもなく次の試みへと進んでいく。「この人は都合が悪くなるとすぐ人形になる」という趣旨の登場人物の発言があるが、人形になるというのは生き延びるためのすべとして興味深い。
 終映近く、倒れたブリキのロボットから北野武演じる吉祥寺太が生まれ直すかのような場面がある。それまで、金正日を模したかのようだった吉祥寺太に、子供のようなあどけない表情が生じる。かと思えば、ほどなく小惑星が落ちてきて各作中作の登場人物もろとも皆吹き飛んで終わる。産まれ直しと自己否定の欲求のせめぎ合いの結果、どうなるのか。壊れた跡から何かが産まれてきそうな期待を抱きつつ、映画館をあとにした。




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