上半身がすっぽり入る魚のかぶりもの
投稿日:
『冬物語』観劇。
冒頭、劇はシチリア王レオンティーズが妻ハーマイオニの不貞を疑うところから始まる。不義密通の相手と目されるのは、レオンティーズの幼なじみ、ポリクシニーズ。彼と妻との親しげな様子から、レオンティーズは無実の妻に対する邪推に取りつかれる。これが、以後展開する事件の発端となる。
この冒頭の場面にどうリアリティを持たせ、説得力を付与するかは、匙加減の難しそうなところだ。レオンティーズの人物像として、嫉妬深さや思い込みの激しさを際立たせるか。それとも、ハーマイオニの人物像として、貞淑であるにもかかわらず妙ななまめかしさを漂わせてしまうような二面性を打ち出すか。今回の上演は、前者の方向性に近い感じだが、観ていてのっけから主人公の狂気の渦に引き込まれるというよりも、唐沢寿明演じるレオンティーズの狂気が、じわじわと明らかになって迫ってくるような感じを受けた。田中裕子演じるハーマイオニは、あくまで清楚に気品を保っていた。あるいは、彼女が観客にさえ疑惑をいだかせるほどのなまめかしさを振り撒いてしまうということがあってもおもしろかったと思う。
細部では、子役の上半身がすっぽり収まるナンセンスすれすれの魚のかぶりものに惹かれた。人物では、長谷川博己演じるフロリゼルの颯爽とした熱情に魅せられるものがあった。
シェイクスピア原作、蜷川幸雄演出。さいたま芸術劇場にて。