あんなカラフルな部屋で昼寝がしたい
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自己を肯定できず、居場所もないように感じつつ、空想上の存在との結びつきを通してどうにか心を保ち、生き延びてゆく。そんな時期を経験した人は、少なからずいるのかもしれない。それは心の内側でひっそりと営まれるものであるがゆえに表立って語られにくいものだが、ときおりフィクションのモチーフとしてひょっこり姿を見せることがある。米林宏昌監督の『思い出のマーニー』もまた、「空想上の親友」をモチーフにした映画だといえるだろう。
自分という存在がこの世界から受け入れられていると感じられず、孤立している中学生の女の子、杏奈。彼女はぜんそくの療養のため、札幌の養父母のもとを離れ、道内の小さな街に転地する。入り江の岸辺に建っている打ち捨てられた洋館で、杏奈は金髪の少女マーニーに出会う。
杏奈とマーニーは、家族から、世界からこぼれ落ちてしまった者どうし、互いを認め、支え合う。果たしてマーニーとは、孤独な杏奈が生み出した空想上の存在だったのだろうか。だが、この空想めいた存在には現実的な種があった。かつて幼子だったころ、杏奈を受け入れてくれた人が、現実に存在していた。その失われた記憶への接近により、彼女はふたたび現実の世界へと結びついてゆく。
転地療養の受け入れ先の家で、二階の窓をあけたときに広がる海と陸地のパノラマ。杏奈とマーニーが入り江を小舟で渡るとき、夜空にかかっている月。カラフルで日当たりのよい、お昼寝どきの杏奈の部屋。この映画には、観ているだけで心を波立たせてくれる光景がいくつもあった。