池袋で乱暴狼藉を目撃
池袋のシネマ・ロサにて北野武監督『アウトレイジ』観劇。
ヤクザ組織の内部抗争における暴力と死の連鎖を描いた作品だ。死にまつわる湿った情念を排し、組織のなかに配置された人間たちにどのような力学が働き、破壊作用が引き起こされてゆくのかを冷徹に、かつ痛切に描き取っている。
冒頭、駐車場にたむろする大勢のヤクザたちの黒ずくめの立ち姿が、シネマスコープの横長の画面にパンしながら長回しで映し出される。この場面がすでに、個としての人間ではなく、人間たちの組織を撮った映画だということをよく暗示している。
抗争の発端は、組織の大ボスが部下の中ボスに対して抱いた小さな嫉妬。この中ボスが他のボスと兄弟分のつきあいをしているのが気に入らないというのだ。中ボスは、大ボスの顔を立てて兄弟分との仲の悪さを演出するため、子分の小ボス(ビートたけし演じる主人公の大友)に命じて兄弟分のグループとのあいだにいざこざを起こさせる。そのいざこざが憎悪を生み、そこに出世欲や金銭欲がからんで、組織のなかを流れる暴力のエネルギー量は増大し続け、男たちは倒し、倒され、組織は半壊に至る。しかも警察組織の一部までもがこのヤクザ組織と手を結んでいて、単なるヤクザ界の内輪もめにとどまらず、より普遍性をもった辛辣な組織論が具現化されているかのようだ。
背広の黒にワイシャツの白、事務所のコンクリートのグレーと、モノトーンが画面を支配し、そこに血しぶきの赤が入り交じる。男たちの、浅知恵に酔って自滅する愚かさ、暴力的だが組織の力学に操られているという点での本質的な無力さが、にもかかわらず、ある種のひんやりとした美しさを伴って画面上に現れているさまは奇跡的である。
ビートたけし演じる小ボス大友の哀感と気迫。小日向文世演じる刑事片岡のひょうひょうとした卑劣漢ぶり。杉本哲太の若頭小沢は、じつに渋い男前。組織を描いて、なおかつ個々の役者の存在感もそれぞれに光っていた。