彼女の名はジャンヌ・ダルク
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渋谷のシアター・コクーンにて『ひばり』上演。ジャン・アヌイ作、蜷川幸雄演出。主役は松たか子演じるジャンヌ・ダルク。彼女の異端審問裁判から火刑に至るまでを題材にした芝居。
ジャンヌが神の啓示を受けてから戦いの先頭に立つまでの経過が劇中劇の形で示されるが、そこでの彼女の、人を動かし、行動に駆り立てる言葉の力がさえわたる。脚本も力強いし、それを生身の肉体に乗せた松の演技もまた鬼気迫っていた。
罪を悔い改める形式を踏むことで一度は得られた、将来のささやかな幸福の可能性を最後に拒否し、自らの生命をも拒否したジャンヌ。この世のそのときどきの掟、この劇でいえば教会の仮構する秩序に従わず、自身の妄念に殉じることを意識的に選び取った彼女は、神懸かりというよりむしろ、自分が個人であることにもっとも誠実であったように思える。熱情とともにきわめて怜悧な正気(狂気ではなく)を兼ね備えた希有な存在として、彼女は舞台上に生き、死んでいった。最後を火刑で悲劇的に締めくくらずに、時系列をずらして王の戴冠の場面を持ってくる脚本の構成も秀逸。
胸が震える、という慣用句があるけれど、文字通り、薄い胸板の筋肉が震えるほど台詞に心をえぐられる場面が何度もある――僕にとってはそんな観劇となった。