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2010年12月8日の記事

南京の夜、東京の夜

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101207スプリング・フィーバー

 中国映画『スプリング・フィーバー』(ロウ・イエ監督)を観に、渋谷のシネマライズに出かけた。
 南京の先鋭な都市生活を背景に、男と男、男と女の体のつながりが、乾いたタッチで描き出される。画質の荒い小型カメラの始終やむことのない手ぶれ感が、観る者に目まいを引き起こすようでもあり、尾行、盗撮、窃視のごとき後ろ暗さをいだかせもする。事実、尾行の場面からこの映画は始まったのだった。感情をそぎ落とした肉体主導の関係が目まぐるしくも即物的に展開するなか、その裏に潜む孤独の痛みが、ところどころで鮮烈に溢れ出る。主人公役のジャン・チョンは、尻上がりに色気を増していったように思う。探偵役のチェン・スーチョンも、その恋人役のタン・ジュオも、魅力があった。
 乗り物酔いにも似た心地悪さとともに、どこか突き抜けた人間関係の新境地を目の当たりにしたような爽快さをも覚えた。映画館を出ると、賑やかな東京の夜の雑踏があった。




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